第116章

稲垣栄作はずっと座っていた。高橋遥の姿が見えなくなるまで。

車内は薄暗く、彼は正装姿で高級レザーシートに軽く背をもたせかけ、その冷たく気高い雰囲気をより一層引き立てていた。

運転手も黙ったまま、しばらくして慎重に言葉を選んで尋ねた。「稲垣社長、別荘にお戻りですか？」

稲垣栄作が口を開こうとした瞬間、携帯が鳴った。

稲垣奥さんからだった。

稲垣栄作は電話に出た。携帯を握る手は長く、骨節が美しく浮き出ていた。しかし彼の口調はやや冷たかった。「何の用だ？」

稲垣奥さんは豪華なナイトガウン姿で、高級な錦織のソファに寄りかかっていた。彼女は手に数枚の新しい写真を持っていた——稲垣栄作と高橋...